兵庫県では、高齢者を狙った特殊詐欺の件数が大幅に上昇するなか、尼崎市だけは大きく減少している。そこでは最先端技術を駆使した特殊詐欺防止対策の実証実験が行われていた。
2022年から2024年にかけて、兵庫県の特殊詐欺認知件数(警察庁が事件として認知したもの)は34パーセント増えているのに対して、尼崎市では24パーセント減少した。じつは2022年から東洋大学と富士通が共同で、犯罪心理とAIを組み合わせ、詐欺被害者の心理状態からリスクを推定して可視化する「特殊詐欺検知AI」の研究を尼崎市の協力で行っている。このほどその最終段階として、一般家庭で特殊詐欺を検知するという、日本初の実証実験が実施されたわけだが、研究の成果がハッキリと示された形だ。

このシステムは、事前に調査した本人の性格特性のデータと電話中のバイタルサイン(心拍数と呼吸数)をAIで解析するというものだ。そこでは、富士通のAI技術を活用したヒューマンセンシング技術と、犯罪心理が専門の東洋大学桐生正幸教授が開発した心理尺度が活用されている。
人は特殊詐欺電話を受けると心理的負荷(緊張や不安)が増大し、判断力が低下する。すると相手を信用しやすくなってしまい、話を聞くうちに心理的負荷が低下して、つまり安心して相手の言いなりになってしまうという。特殊詐欺検知AIは、バイタルサインの変化から心理的負荷を推定し、性格特性と合わせてリスクを割り出す。尼崎市では、これまで5回にわたり108人の住民の協力で実験が行われてきた。電話の相手は、最新の特殊詐欺の手口を学習させたAI詐欺師だ。今回の実験で、特殊詐欺電話の判定精度を82パーセントにまで高めることに成功した。

尼崎市はこれとあわせ、自動録音機能装置付き電話機の購入補助金を支給し、市と警察と金融機関が連携してATMで警戒を強めてきた。こうした総合的な取り組みにより、詐欺被害を大幅に減らすことができたということだ。今後は、この取り組みを兵庫県下に広げるとしている。